表面保護用シートに関する特許明細書

スマートフォンやタブレットを購入したとき、ディスプレイを保護するシートが貼ってありますよね? 新しいスマートフォンを買ってあの保護シートをはがすとき、いつもワクワクしてしまうのは私だけでしょうか。

今回紹介するのは、そういった携帯端末やテレビなどのディスプレイに貼る表面保護用シートとその粘着剤を扱った特許明細書です。

発明の目的と、それを実現するための材料である化合物を中心に紹介します。

****************************************************************

テーマは、表面保護用シートとその粘着剤について

◎この発明の背景

携帯端末やテレビなどの液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイに貼り付けられている表面保護用シートは、製造時や搬送時に光学部材が傷つかないようにするためのものです。

また、車載搭載のディスプレイ(カーナビゲーションなど)用の表面保護用シートは、その目的に加えて、車内の高温、高湿という過酷な環境からディスプレスを守るために使用されます。

そんな表面保護用シートに必要な機能は、以下の3つです。

・濡れ性がよい
外観検査時に気泡が入っていたら正確な検査ができないので、気泡が入らないように、しっかり密着している必要があります。

・耐汚染性がある
表面保護用シートは役目を終えると剥離されますが、その時、シートの粘着剤層がディスプレイの表面に残留していると、ディスプレイは美しい画像を表示することができません。なので、粘着剤層の残りがないよう、きれいに剥離できるシートが必要です。

・耐久性がある
車載搭載のディスプレイに貼るシートは、真夏の自動車内の高温、高湿度に耐えうる耐久性が必要です。

🙄 この3つの条件を満たすために、どのような粘着剤がよいのか、この時点で私が考えた(推理した)のは以下のことです。

・濡れ性がよい
濡れている必要があるということは、水分が必要。なので、粘着剤層の表面は親水性であったほうがよいのではないか。

・耐汚染性がある
被着体に接着剤成分が残らないようにするためには、粘着剤に流動性があることとべたつきが強すぎないことが必要ではないか。

・耐久性がある
耐熱、耐湿度に優れた材料を使用する必要があると思う。

◎この特許明細書で提示された解決策

この3つの条件をすべてかなえる表面保護用シートとその粘着剤を作成するために提示された解決策は以下の通りです。

1.粘着剤成分に以下の3点を含む

・アクリル系ポリマー (アルキレンオキシ基含有モノマーと水酸基含有モノマーを含むモノマー混合物の共重合物)

・イソシアネート硬化剤

・可塑剤

2.上記の含有物それぞれの含有量が決まっており、その範囲内で粘着剤を作製する

3.「1」と「2」の条件を満たした粘着剤をシートに塗布し、表面保護用シートを作製する

◎解決策にある粘着剤成分の詳細

1.粘着剤に含まれるアクリル系ポリマー

このアクリル系ポリマーに含まれるアルキレンオキシ基含有モノマーと水酸基含有モノマーの成分について詳しく書いていきます

1-1.アルキレンオキシ基含有モノマー

1-1-1.アルキレンオキシ基とは

アルキレンは、脂肪族炭化水素のアルカンから水素2つ取った2価の置換基です。

例えば、エチレン基は

-CH2-CH2-

オキシは、-o-の基の名称です。

なので、アルキレンオキシ基は上記の2つが合体した基になります。

アルキレンオキシ基であるエチレンオキシ基は、-CH2CH2O-となり、構造式は以下の通りとなります。

この基の特徴は、水に親和性があることです。

1-1-2.なぜアルキレンオキシ基含有モノマーを使用するのか

以下の理由からこのモノマーを使用します。

・基材との密着性が向上

・濡れ性が良好な粘着剤層を形成できる

また、その粘着剤を使用したシートは

・耐久性を持つ
具体的には、ディスプレイが高温、高湿環境下に置かれても光学特性の低下を抑制できる

・凝集力と基材への密着性を向上

➡ 凝集力とは
接着剤の分野で用いられる凝集力とは、分子、原子、イオン間にはたらく力、いわゆる分子間力です。

1-1-3.好ましいアルキレンオキシ基含有モノマーの例

特許明細書に紹介されていたアルキレンオキシ基含有モノマーの例の1つを挙げます。

メトキシトリエチレングリコールアクリレート

*この化合物の特徴
低粘度(粘度5~6)
希釈性良好
ポリマーTg: -50℃

1-2.水酸基含有モノマー

1-2-1水酸基とは

水酸基は、ヒドロキシ基又はヒドロキシル基ともいい、-OHの構造を持つ1価で、アルコールやフェノールの官能基です。同じ水酸基を持っていても、アルコールは中性で、フェノールは弱酸性です。また、水溶液でOH(水酸化物イオン)が電離する物質は塩基性の性質を持っています。

1-2-2.なぜ水酸基含有モノマーを使用するのか

以下の理由からこのモノマーを使用します

・粘着剤層に架橋によるポリマーネットワークができる

・凝集力を持つ

・耐汚染性に優れる

・高温、高湿環境下でも浮き、剥がれを抑制できる→耐久性を持つ

・凝集力と基材への密着性を向上

1-2-3.好ましい水酸基含有モノマーの例

特許明細書に紹介されていた水酸基含有モノマーの例の1つを挙げます。

アクリル酸2-ヒドロキシエチル

*この化合物の特徴
融点: -60℃ 沸点: 90~92℃
水と多くの有機溶剤に溶けやすい
アクリル樹脂の原料。親水性アクリルポリマー用のコモノマーとして使用される

1-3その他のモノマー

上記2種類のモノマー以外に(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基含有モノマー、アミド結合含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、ビニルモノマー等も使用できます。

1-4アクリル系ポリマーの作製

モノマー混合物を重合して、アクリル系モノマーを作製します。

重合の方法は、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合などが可能ですが、ここでは、特に溶液重合が好ましい方法です。アセトン等の溶媒と過酸化物、アゾ化合物などのラジカル重合剤を使用します。

 ➡ 重合方法

溶液重合
溶媒中で重合を行う方法。重合の際に出る熱を溶媒が吸収する利点がある一方で、溶媒の除去をしなければならないという欠点もあります

塊状重合(バルク重合)
溶媒を使用ない重合。単量体だけ、又は重合開始剤を使用して反応させます。他の重合と比較すると、純度の高い生成物が得られますが、重合熱の除去が難しいという欠点があります。

懸濁重合(粒状重合/パール重合/ビーズ重合)
水に溶解しない単量体を、水中に入れて分散させ、懸濁して重合反応を起こさせます。その際分散剤と重合開始剤を使用します。水中なので、重合熱が吸収されるという利点があります。

乳化重合
油に溶解する単量体と乳化剤(界面活性剤)を水中で分散させて乳化させ、ミセルを形成。そこに水溶性の重合開始剤を入れて重合させます。重合はミセル内で行われます。生成物はエマルジョン状態であり、純度は低くなります。

2.イソシアネート硬化剤

2個以上のイソシアネート基を持つイソシアネートです

2-1.イソシアネート基とは

イソシアン酸エステルの総称で、一般式R-N=C=Oで表される構造を持つ化合物です。

第1級アミンとホスゲンの反応(RNH2+COCl2→RNCO)などによって得られます。反応性に富んでいて、イソシアネートにアルコールが付加するとウレタン、アミンが付加すると尿素が生成されます。

 ➡ アミン
アンモニアNH3の水素を炭化水素基Rで置換した化合物をアミンといいます。3つある水素の中で1つの水素をRで置換した化合物を第1級アミン、2つの水素を置換した化合物を第2級アミン、3つの水素を置換したものを第3級アミンといいます。 
 ➡ ホスゲンCOCl2
融点が-128℃、沸点8℃。毒性があり、トルエンに溶けます。
特有の臭気をもつ無色気体です。反応性に富むので,多くの有機合成の原料として用いられます。水と反応すると、加水分解されて二酸化炭素と塩酸が生成されます。
CoCl2+H2O→CO2+2HCl

2-2.イソシアネート硬化剤を使用する理由

アクリル系モノマーの水酸基と反応して、下記を実現することができます。

・凝集力が向上

・高温、高湿環境下でも浮き、剥がれを抑制できる

・透明性の向上

2-3.種類

イソシアネート基を含むイソシアネート硬化剤として、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネートに属する化合物と、これらのビュレット体、ヌレート体、アダクト体を挙げています。

なかでも、3官能のイソシアネート化合物が、十分な架橋構造を形成するという理由で好ましいとしています。

2-4.その他の硬化剤

イソシアネート硬化剤以外に使用できるものとして、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、酸無水物基含有化合物、金属キレートなどがあります。

3.可塑剤

3-1.可塑剤とは

分子間力でつながっている硬い樹脂の分子の間に入り込み、分子間の距離を広くすることで、樹脂を柔らかくする力を持っている添加剤です。

3-2.可塑剤を使用する理由

粘着剤層に可塑剤を使用することで下記を実現できます。

・粘着剤層の柔軟性が向上

・被着体の濡れ性、耐汚染性が向上

3-3.種類

ここでは、エステル系可塑剤、液状ゴム系可塑剤を使用します。

◎まとめ

表面保護用シートの粘着剤層の材料となる化合物(特許明細書で紹介されているたくさんの化合物の中の1つだけなのですが)の性質を調べてみて、それが表面保護用シートに必要な機能(濡れ性、耐汚染性、耐久性)とどう関わるのかという視点からまとめてみようと思い立ったのですが。。。

各化合物の役割については、明細書にあったので知ることができました。

が、各化合物がなぜそのような機能を持つのか、どういう反応からその機能を発揮するのかは、はっきりとはわかりませんでした。

特に一番の疑問だった濡れ性と耐汚染性という相反する機能の両立が、どのような反応で成り立っているのかはわかりませんでした。化合物の親水性、粘度などがかかわっているのかなとも思いましたが、、、、。

化合物の性質だけでなく、シートの基剤と粘着剤との関係、重合や粘着剤の合成などいろいろな要素がからまっていくと思うので、それぞれがどう影響するのかは、また宿題とさせていただきます。宿題ばかりが増えていく。。。(^^;)

*参考資料

化学便覧 応用化学編 第5版
標準化学用語辞典 第2版
化学辞典 (東京化学同人)
Wikipedia
Chemical Book